「これからは哲学と芸術の時代だよ」と私に向かって言われたのは、本書の著書である早島天來(正雄)先生(日本道観始祖)です。平成十年六月のことでした。先生の言葉の通り、タオイズム(Taoism)という老荘学、老荘思想が、その頃からいっそう世界的関心を呼ぶようになってきました。
本書では、「タオの巨人」と台湾や香港などで称された早島先生が、生涯を通じで説き続けていられたこと、すなわち、
「人生を無為自然に楽しく生きよう」
「人間はいつまでも若々しく生き、そして天寿をまっとうできる」
「何事にも対立しない生き方こそ本来の道だ」
「心と体は一緒に治す」
「外を変えるには、まず自分を変えよ」
そうした生き方と、その根底にある、老子を祖とする老荘哲学を解説した本です。
平成十一年六月、早島天來先生は登仙し、仙境に入りましたが、早島先生の思想および、その心と体についての実践的な原理に対する関心は、時を追って、ますます高まってきていることを実感します。
「この本が本当に必要とされる時に出版するとよいだろう」とおっしゃりながら、先生は机に向かい筆を執ってしました。
最近、世界規模で社会的不安が高まり、また健康に対する心配がさらに強まり、そんな中で、いかに人生を生きるべきか、ということに多くの人が心を向けるようになってきたようです。まさに本書を刊行すべき、その時が到来しました。
心と体を改造する不老長寿の道を追求してきた道家(どうか。どうけとも読む)の教えである導引、それを現代に甦らせ、導引術として体系化し、確立をされたのが早島天來先生です。
さらにまた大東流合気術と中国の動功術の修行練磨と指導の中から、武道であり心身の健康法でもある「道家動功術」を確立したのも早島先生です。
早島先生は導引術と道家動功術の指導と研鑽のセンターとして、日本道観を設立しました。
先生のもとには、病気の人や健康に不安のある人が指導を求めて、次々と訪れてきました。先生は、その多忙な日々の中で、あるとき、こうおっしゃったものです。
溺れるものはわらをもつかむという。
このあがきを、私は尊いと思う。私はそのようなわらしべの一本になりたいと思う。
私はこの身を千本、万本のわらしべに切り刻んで、世の中という苦海に浮かばせたい。
そして、溺れかかっている人に、どしどし?まえられたい。
「世の中に、苦しんでいる人がこれほどまでたくさんいる。にもかかわらず、それを治すことのできる道と術を自分だけが知っていて、それを隠しているままでは、人間として本来の生き方ではない。これまでの道家の長い伝統においては、それは秘密のものであった。だが、あえてその伝統を破ろう」
――早島先生は、そう思い定めて、その秘法の公開を決意しました。そして、人々を救うタオイストとしての人生を力強く歩まれたのでした。
この本は晩年に執筆を続けていた遺稿に加えて、生前の長年にわたる、たくさんの著書と雑誌に書かれた論文、講話、インタビューの中から、先生が本著のためにとくに選び抜き、手を入れていた文章を加えて、一冊に編集したものです。
天來先生は、晩年は病気治しはなさらず、各自が自ら心身を癒す、気のトレーニングの指導に力を注いでいました。
「本書を通じて、多くの人々が人間本来の健康を取り戻し、毎日を楽しく、快適に生活されることが私の願いである」
――これが早島天來大先生から読者へのメッセージです。
日本道観の始祖である早島先生は、つねづね「運命は自分で変えられる」と困り果てて相談にやってくる人に向かって、力強くおっしゃっていました。
本来の老荘哲学、そして早島先生の哲学は、単なる観念論ではなく、実践的な人生哲学であり、毎日を生きる上での具体的な道です。
二十一世紀にあって、人生の不安をいかに克服するか、地球環境を守るためには個人としてどうすればよいのか、そうした悩みや問題に対しても、早島哲学の集大成というべき本書は、必ずや大きなヒントとなるに違いありません。
この本を手に取られたあなたが、仙縁に触れて、運命は自分でみずから切り開くことができるということを知っていただけるよう、心から願っております。
病気を恐れることなく、日々楽しく、そして生涯現役で生きていく道が、あなたの前方に大きく広がっているのです。
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